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2013_02
18
(Mon)00:00

徒桜 4

はじめましての方は
まず先に

徒桜1 ~ 徒桜3 をお読みください





きょとんとして夕鈴は声の発した人物へと声をかけた

「――おばさん」
「ああ?何だ夕鈴ちゃんかい。あんたのところも警吏が来てたのかい?」
「ええ。あんなに失礼な事されたの初めてです」
「全くだよ。いくら不審者を捜すためとはいえ家探しまでしなくってもいいだろうに」
「不審者、ですか?」
「おや、知らないのかい?昨晩王宮に不審者が入り込んだらしいんだよ」
「…王宮に…」
「そうさ。それで逃げた不審者がどこに潜んでいるか分からないからこうやって周辺を捜してるらしいんだけどいくらなんでもねぇ」

『王宮』ときいて夕鈴の鼓動が跳ねる
夕鈴が後宮から里帰りしてきたのは昨日の事だ
もしかしたらそのことと里帰りの事と何か関係しているのかもしれない

――陛下は無事なのだろうか

けれど黎翔が討たれたり怪我をすれば瞬く間に話は広がるだろう
そう言った話は聞こえてはこなかった
ただ国外などの牽制のためにそういった情報を秘匿する事もある
貴族でもない夕鈴の元に集まる情報などたかが知れている
しかも昨日の今日では真実を知ることはかなり難しいと言えるだろう
今回ほど里帰りしていた事を悔やんだことはない

今からでも王宮に帰ればいいだろうか
そわそわと落ち着かない気持ちでいれば声をかけられる

「まあとにかく、犯人も捕まってないって言うし物騒なことには変わりないし気をつけるんだよ」
「…はいわかりました」

じゃあねと言って隣人は自宅に戻って行った

夕鈴はしばらくそこに佇んでいた
そのまま握った手にぎゅっと力が籠る

今すぐにでも王宮に戻りたい気持ちを堪える

帰りたいのは山々だ
そして黎翔の無事な姿を確認したい
だけれど今ここでいきなり王宮に戻ったとしても
昨夜起ったというならば王宮内は混乱しているはずだ
もともと今回は1週間ほどの長期のお休みをもらっている
いきなりふらりと帰ってもそのまま対応してくれるかどうかも分からない

黎翔の助けにはなりたいが足手まといになどはなりたくはないのだ
王宮を離れてしまえばこんなにも黎翔との繋がりは薄い
その事実が胸を締め付ける
どうしようもできない焦燥だけが心中を掻き乱す
とにかく今日はもう夕方
今から帰るとなると王宮に着く頃には夜になってしまう
そうなると周りにも迷惑がかかる
それならば明日の朝早く帰る方がよさそうだ
そう結論付けて家の中へと戻って行った

落ち着かない気持ちのままそれでも夕飯の支度の続きをするため
夕鈴は再び台所へと戻った

なんとか不安な気持ちを押し込めていると
表から物音がした
青慎が帰って来たのかと思いながらもそのまま調理の手を進める
するとばたばたと焦った体で青慎が台所に飛び込んできた

「ね、ね、ね、姉さん!」
「おかえり青慎。どうしたの?何かあった?」
「ち、ちょっと来て」

慌てて手を引いてくる青慎が連れてきたのは家の裏手だ

「もー。一体どうしたっていうの、よ…」

ぶちぶちと文句を垂れながらも青慎の後を付いていくと
その先に何かがうずくまっている事を確認した

「…え?」

黒っぽい何かがいるのは見た目からして不気味だ
夕鈴は遠目から見た一瞬、黒い大きな犬か何かと予想していたが
それよりも一回り以上も大きいと判断し
それなら何かと警戒しながら近寄ってその物体の目の前に立った

それは全身黒づくめの人だった

夕鈴は一体どこから入ってきたのかと呆けながらも
その蹲っている人物をまじまじと観察する

そしてその人物の体のある1点が目に入ると
驚きで目を見開いた
それはその人物の脇腹に巻かれてある布を染め上げている色

はたから見てもただならぬその姿に夕鈴は息をのんだ

夕鈴の意識をそこから戻したのは隣にいた青慎の言葉だった

「が、学問所から帰ってきて何か物音がすると思って裏口を覗いてみたんだ。そうしたらこの人が倒れていて…」

姉さん?という不安げな言葉で一気に意識が覚醒する

「け、怪我してる!とりあえず医者を…」

そう言いとりあえず医師を呼んで来てもらおうと青慎に指示を出そうとしたところだった
その瞬間がしりと腕を掴まれた

「ひっ…!!」
「…人を呼べば、殺す…!!」
「なっ…!!」

手負いのはずなのに腕を掴む力は強く夕鈴は戸惑う
その強い眼差しが夕鈴を射抜いた

「…っ…!!」

そしてその苛烈なまでの視線とが絡まって夕鈴は暫し呆けた

――これは…

腕を掴まれている痛みすら忘れてぼうっとそれを見つめていると
ふっと掴まれた腕の力が抜けるのを感じ
その人物の身体が再びぐらりと傾いでいった

「え?ちょっと…!」

ばたりとその場に倒れ伏せた人物を見て
夕鈴と青慎は顔を見合わせた

夕鈴はゆっくりと近寄る
まさか今までのは嘘でまたいきなり腕を掴んできたりはしないだろうかと
恐々とその様子を探る

「――――」
「え?」

懇願するような呟きと共に目からこぼれおちたそれに
夕鈴はしばらく眉を顰めた

そしてもう動かない事を確認すると
先程から張りつめていた息を吐いた

「姉さん、この人って…」
「そう、ね。朝から警吏が探してるって言う人なんでしょうね…」

頭が痛くなりそうなその事実にこめかみを押さえながら
青慎に指示を出す

「…とりあえずここに寝かせておくわけにはいかないから客間に運びましょうか」
「ね、姉さん!」
「ん?何?」
「…その…」

青慎の言いたいことは分かる
こんな危険人物をかくまっていたとなると
その身に降りかかる罪状は如何様なものか

気を失った時点で警吏に連絡して捕えてもらうのがきっと正しいのだろう
それでも、と夕鈴は思う
あの最後に呟いた言葉と目からこぼれおちたもの
どうしてもそれを見過ごす事が出来なかった

夕鈴は本当にたいがいお人よしだなと苦笑する
あの忌々しい金貸しの息子の言う事を否定はできない
でもなぜか心動かされたそれを見てみないふりをすることの方が後悔しそうだったのだ

はあと溜息をつく
黎翔の無事な姿を確認するために
明日の朝一で王宮に戻ろうと計画していたのに
そして会いたいのにできれば姿を見せないで欲しいと矛盾した考えのまま
青慎とその人物を運ぶのを手伝っていた




徒桜5につづく
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