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2013_03
18
(Mon)00:00

徒桜 8

はじめましての方はまず先に

徒桜1徒桜7をお読みください


拍手お礼文にて
徒桜の小話を気まぐれ更新中です

PC閲覧からのみですが
こちらも合わせてお楽しみください



「怕(はく)気分はどう?」
「ああ、だいぶいい」

薬湯を手渡しながら夕鈴は目の前の人物に問うた
手ずからに渡された薬湯をごくりと飲み干す目の前の人物を見る

あの後目を覚ました人物は怕と名乗った
あれだけの大怪我の後だと言うのにこうやって意識もはっきりと持ち
驚異的な回復力だと診察した医師も舌を巻いていた

目覚めた時の騒動はまあいろいろあった

そりゃあまあ驚くだろう
怪我して気絶して気が付いたら全く知らない場所で
しかも手当てがされていて
目の前にいるのは倒れた直前に目にした人物
まあひと騒動あったとだけ言っておこう

そしてその騒動に気が付いて几鍔が駆け込んできた事も
怕の目の前でいつものごとく二人で言い合いをしてしまった事も
気にしないったら気にしない

きっと落ち着いた頃には延々と几鍔に嫌味を言われるんだろうなと
その時の文句を想像して眉間にしわが寄るのは仕方がないだろう
そんな姿の夕鈴を勘違いしたのか
申し訳なさそうに怕と名乗った人物が謝ってくる

「私のせいですまない」

その言葉に焦ったのは夕鈴だ

「き、気にしないで?!私が好きでやった事なんだし謝らないでよ」
「でも恋人と喧嘩させただろう?」
「あんな陰険金貸し恋人じゃないわよ!!」

剣幕に気圧されて目を見開いた怕に気が付いた夕鈴は
顔を真っ赤に染め上げてうううと呻いた

 * * * * *

カタンとつかえをはずし少しばかり窓を開ける
少しばかり高い位置にあるこの部屋は
寝ていても寝台から風景が見えるはずだ
窓の外にはちょうど花のつぼみがつき始めた樹が見える
すこしでも気晴らしになればと思ったからだ

ふわりと風が入ってくる
まだ少しばかり冬の冷たさの混じる風が頬をくすぐる

「風は冷たく感じる?寒いとかない?」
「大丈夫だ」
「そう。じゃあ空気の入れ替えもしたいからしばらくここを開けておくわね」

薬湯の入っていた空になった湯呑みを持ち
水差しの水を替えるため夕鈴は部屋から出て行った

しばらくして夕鈴が部屋へと戻ると
ぼんやりと外を眺める怕を目にとめた

夕鈴は持ってきた水差しを寝台の傍に置いてある卓に置き
自身は近くにある椅子の上に腰かけた

外を見たままの怕は胸元を握り締めている
そこにある物を夕鈴は思い出して夕鈴は頬を緩める

「綺麗な飾り玉ね」
「え?」
「それ」

夕鈴が指をさすとその人物の胸元に光る飾り玉が揺れている
目覚めた瞬間にひとしきり騒ぎ胸元にないと気が付いた時の悲壮な表情を夕鈴は覚えている

そしてそれがあると知った時のなきそうなほどに歪んだ顔
差し出した飾り玉を震える両手で握りしめて胸に抱えこんだ
どれだけ大切にしていたのかがまざまざと知れて夕鈴は言葉を無くした

「怕の目の色と一緒ね」
「……」
「綺麗な蒼」
「…ああ」

簡単な返答の後で怕は口を閉じてしまった
触れられたくない話題だったのかもしれない

そっと怕の表情を伺う
夕鈴はこうして怕を看病していてもまだ信じられない
この人が本当に王宮を襲撃したのだろうかと
けれど状況証拠があまりにも揃いすぎていて否定もしづらいのだ

夕鈴から見た怕は儚げで今にも消えてしまいそうだ
線の細い体に蒼い瞳、きらきらと陽に透けてなお輝く金色の髪
じっと外を見つめる姿を見つめながら
ふっと掻き消えてしまうのではないかと言う気持ちに囚われる

もうしばらく付いていてあげたいけれど夕鈴の休暇はもうすぐ終わってしまう
延長することは可能なのだろうがその場合は理由を告げなくてはいけない
どうしてもいま怕の事を黎翔や李順に伝える気にはなれなかった

しばらく逡巡したあと夕鈴は口を開いた

「あの、わたしもう少ししたら仕事先に戻らないと行けなくて…」
「仕事?」
「そうなの、住み込みで働いていて今回はたまたま里帰りしてたの」
「それじゃせっかくの里帰りを潰してしまったんだな…」
「あ、それは全然気にしないで?でも私が帰っちゃったら怕の面倒を見る人が変わっちゃうから…」
「気にするな。そのころには私もここを出るよ」
「え?」
「これ以上世話になるわけにはいかないから」
「で、でもまだ傷もふさがってないって言うのに」
「大丈夫。慣れてるから」
「慣れてるって…」
「身体が綺麗になっている。拭いてくれたんなら見たんだろう?」

その言葉に夕鈴は言葉を噤む
思い出すのは身体を拭いている時に見た体中に残された傷跡
それだけでどんな生活をしていたのかが窺えた

「だから大丈夫。夕鈴には世話になった」
「でも…」
「本当に大丈夫だ。それにここにいれば夕鈴たちに迷惑がかかる」
「迷惑だなんてそんな」
「なるよ。分かってるんだろう?」

分かっている
怕を匿う事がどれだけ危険なことなのかも
それによって自分だけではなく周りを巻き込んでしまうことも
大嫌いな金貸しの息子でも夕鈴の所為で捕まってしまうのは寝覚めが悪い

ここを借りる時にもしばれたらと言う話にもなったが
最終的にばれれば知らぬ存ぜぬで通すからとも言われた
幼馴染と言う立ち位置でこの家も知っていたのだと
そう言いはってもらえればば何とかなるかもと思ってもいたのだが

やはりこれが甘いと言われる所以なのだろうか

口を閉ざした夕鈴に怕は視線を向ける

「ありがとう。あなたみたいな人もいるんだな」
「……」
「私の事は忘れてくれ。覚えていてもいいことなんてないから」
「…怕」
「だが夕鈴の事は忘れない。恩に着る」

なぜ夕鈴には忘れてと言い自分は覚えているとなどと言うのか
その矛盾を夕鈴は問いただしたかったが
次いで出た怕の言葉に夕鈴は言葉を失った

「久しぶりに心穏やかに過ごせた」

それは、どういう意味だろう
怕の言葉が頭の中にすんなりと入ってこない
穏やかではない日々とはどんな日々なのだ

そう淡々と告げる怕に夕鈴は一縷の望みを託して問いかける

「ねえ「無理だ」」
「逃げるわけにはいかないから」

何から?と聞くことはもうできなかった




徒桜9につづく
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