FC2ブログ
--_--
--
(--)--:--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2013_03
25
(Mon)00:00

徒桜 9

はじめましての方はまず先に

徒桜1徒桜8をお読みください




「お帰り夕鈴」
「ただ今戻りました…」

にこにこと出迎えてくれた黎翔と視線が合わせられない
それはやはり後ろめたいと思う事があるからだろう

「ねえ、夕鈴?」
「…何ですか?」
「…何かあった?」

ドキリと一つ胸が大きく波打つ
目を見開いたままの夕鈴にふ、と笑顔を向けた黎翔の表情を見ることができない

「いえ、何も…」
「そう…」

俯きながら言った言葉に対しての黎翔の返答に申しわけなさが去来する
今は黎翔の事を一番に考えなくてはいけないのに
いま夕鈴の頭の中を占めているのは怕の事だ
怕を匿ったことには後悔はしていない
けれど最後に言った怕の言葉がどうしても頭の中にこびりついて離れない

逃げられないとはどういう事なのだろう
もしかしたらもう一度黎翔を襲いに来るのかもしれない
それは間接的とはいえ夕鈴が黎翔を襲う手助けをしたということになるのだろう

それは夕鈴が日々掲げている
黎翔の力になりたいと言う事とは真逆の方向性で
あの時からぐるぐると思考が渦を巻いていて離れない

夕鈴が王宮へと帰らなくてはならない日の前日の夜に怕は去って行った
まだ休んでいた方がいいという医師の診断も夕鈴の言葉も聞かずに

何処へ行くのかと行くあてはあるのかと問うても
何も答えてはくれなかった
それはもう関わらない方がいいと言う怕なりの拒絶だったのだろう

ありがとうと礼だけ言われ怕は闇夜の中に消えていった
夕鈴はただただそれを見送るだけだった

後宮へと至る回廊を辿る
ここにも木々の枝に薄桃色の蕾がつき始めている

この樹の名前は桜といいはるか東の島国から取り寄せたものだと言う
毎年春になると薄桃色の花を咲きほころばせる
それは当時この樹を献上した際に当時の王を喜ばせ
徐々に国内の至る所に植樹していったのだと言う

けれど一瞬で花を綻ばせ瞬く間に散りゆくそれは
当時の国王の権勢を揶揄していたのだろうとも言われている
実際に花が咲く期間は驚くほどに短い
満開の時期に雨など降ればひとたまりもない

下町にも何本か植えてあった
怕を匿っていた家からもそれが見えた
何かを考えるように熱心にそれを見ていたのを夕鈴は覚えている

「…怕…」

呟いた声は誰にも聞かれずに空にとけて行った

 * * * * *

何かがおかしい?

そうして自室へと戻ってきた夕鈴がまず最初に感じたのはそれだった
何がおかしいかと言われるとうまく説明できない
けれど室内に入った途端に何故だか違和感を感じたのだ

家具も増やされているというわけでもないし
微妙に位置が違っているの…??
夕鈴が居ないうちに大掃除でもされたのかもしれない

確かに今回の休暇はいつも以上に長くとられていた
普通なら2,3日で終わらせて来いと言われるのに
今回は1週間近くも与えられたのだ
まあ確かにそれだけあれば家具類にも埃はたまるし
大掃除するのには最適かもと気にしない事にした

そんな風に一人で納得している夕鈴の後ろに控えている侍女たちが
夕鈴が首を傾げた瞬間に身体を強張らせた事に気がついていれば
何があったのか問い詰めたのであろうが
幸か不幸か夕鈴はそれに気が付くことはなかった

そしてあの休暇から数日ほどが経つ

昼間は黎翔の政務室に呼ばれたり
それが無い時は後宮奥を掃除して老師に世継ぎはまだかとせっつかれ
また紅珠とお茶をしながら話に花を咲かせる
夜は夜で仕事終わりに黎翔が居室を訪ねてくる
そこでも何も変わらずにお茶を飲みながら毎日の出来事を話し
囲碁や双六などを興じる

恐ろしいほどに休暇前の日常と変わりなく日々は過ぎていく

時たま何かを言いたそうにしている黎翔を見るが
その事には気が付かないふりをする
このまま怕が現れなければ何も変わらないのだ

もう終わった事だと気にしないふりをしていた
薄情だと思うかもしれないが本人がいなければ何もできない
だから知らずに安堵もしていた

そう、その時が来るまでは

 * * * * *

その日はいやに後宮内がざわつく感じがしていた
何か糸がピンと張りつめているような緊張感を孕んでいる
ただ心地よいものなどではなくて
なにか戸惑いを含んだような
ぞわりぞわりと不安を押し上げるような
そんな緊張感が後宮内を張り巡らしていた

その日の夜も夕鈴はいつものごとく黎翔の訪れを待っていた
遅くにはなるが起きていて欲しいと黎翔に頼まれたためだ
現在の時間はいつもの就寝時間よりも大幅に遅くなっている

夜もかなり深くまで更け
夕鈴はうつらうつらと舟を漕ぎながら襲い来る睡魔と闘っていた

その時にふと風の流れが変わるのを感じた
もしかしたら気を使って黎翔が静かに訪れたのかもしれない

そう思い眠気交じりの思考のまま顔を上げれば
すいと首元に刃が当てられる

「動くな」

ピンと緊張が張り巡らされる
だが夕鈴にはそれどころではなかった
かすんでいた思考が一気に覚醒する

耳元で囁かれるそれ

「貴女には悪いがここで亡き者となってもらう」

それは数日前に耳にしていた人の声音
まさかと思い首が傷つくのも厭わずに視線を背後の人物に向ける

そうしてその人物と視線が絡まる
その人物の蒼い目が驚愕で見開かれた

夕鈴は相変わらずの綺麗な蒼だと
場違いにもその眼の色にまたしても見入ってしまっていた

首に当てられていた刃物がすっと首元から離れていく
ひとつひとつの動作が随分とゆっくりに見える

夕鈴から身体をも離した怕がよろりと揺らめく
どうしてと呟きながら怕はじっと夕鈴を見つめた

「夕鈴…」
「怕…」

そして夕鈴はようやく気が付いた
怕が狙ったのは黎翔ではなく妃だったのだと
それは即ち夕鈴自身だったのだということに




徒桜10につづく


スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

コメントの投稿

非公開コメント

トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。