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2013_04
01
(Mon)00:00

徒桜 10

はじめましての方は

まず先に
徒桜1徒桜9をお読みください





ようやく夕鈴は合点がいった
なぜあんなにも長期の休みをもらえたのか
そして戻ってきた時に感じた違和感は
夕鈴の居室で戦闘が行われたという名残だ

怕のあの時の怪我のひどさから考えて
この部屋内でどんな戦闘が行われ
そしてこの部屋がどんな惨状になったのか想像に難くない

「どうして夕鈴が此処に…」

未だ茫然としてそうつぶやいた怕に夕鈴はかける言葉が見つからない
一番恐れていたことが起こってしまった
それは大元を正せば夕鈴の罪に他ならない
今回の事を予測していなかったと言われれば否だろう
このまま何事も起こらないでと願いながらも
どこかでもう一度、襲撃されるのではないかと予想はしていた
それが自分自身への刺客だったとは予想していなかったが
今思えばどうしてそう思っていられたのか
全て予想の範囲内であったと言うのに

助けた事もそれを黙っていた事もすべて夕鈴の咎だ

だけれどあんな風に傷ついた人をどうして放っておけると言うのだ
それこそ夕鈴の望むところではない

――怕

そう夕鈴が声をかけようとした瞬間だった

「また会ったな暗殺者」

低い声音が室内に響く
その聞き覚えのある声の方向に
夕鈴が恐る恐る振り向けばそこには黎翔が立っていた

「…国王…!!」

ぎり、と怕が奥歯を噛みしめる音がする
殺気を既に隠そうともしないその睨みは酷く苛烈だ

黎翔は怕の姿をしげしげと眺める

「あの時はほとんど暗闇だった故よく分からなかったが、なるほど異人だったか」

「違う!」

怕が叫ぶ
黎翔はその叫びに少し方眉を上げただけで異ともせずに夕鈴に視線を据えた
ひたと夕鈴と黎翔の視線が絡む
夕鈴はその視線を固唾をのんで見つめた
そうして黎翔はゆっくりと言葉を紡ぎ出した

「どちらでもよい。貴様が私の妃を狙った事は事実だ」

黎翔は夕鈴から目をそらさずよどまずに怕に告げていく
それは同時に夕鈴にも罪の意識を改めて植え付けさせていく

「夕鈴は住み込みの仕事だと…」

眉をしかめながら怪訝さを隠そうともせずに怕が応える

「そうだな、それが事実だとしても妃なことには変わりない。…なあ夕鈴?」

夕鈴の肩がびくりと震える
そうして理解した
黎翔は怒っているのだ。今回の夕鈴の行動に
その事は発せられる声音で肌でピリピリと感じる
それは普段夕鈴にかけられるような優しいものではなくて
酷く責め立てられているように感じられた

まるで蛇に睨まれた蛙の様に微動だにできない
黎翔に見つめられたまま夕鈴は身が竦む思いがした

そんな状態を断ち切ったのは怕の言葉だった

「騙したのか…?」

絶望したように消え入るような声で発せられたそれに
夕鈴は思わず否定の言葉を投げかける

「違うわ!」
「じゃあなぜここにいる?」
「それは…」

夕鈴は口ごもってしまう
理由など言えるわけがない
簡単に言えるようなものならばあの時に真実を伝えていただろう
この事はごくごく少数しか知らない極秘事項だ
自身の疑いを晴らすためとはいえおいそれと言える物でもない

答えに窮する夕鈴を見つめながら怕は皮肉気に言葉を放った

「なるほど。私はまんまと策に引っ掛かったと言うわけか」
「だ、騙してなんかいないわ!本当よ!!」
「…夕鈴が妃だと言う事は嘘じゃないんだろう?それともそこの国王が嘘をついていると言うのか?」

それを言われてしまえば反論の余地が無い
夕鈴だとてああは言ったものの何を話していいのかなど決まってなどいないのだ
きゅっと唇を噛みしめながら弱弱しく言葉を発する

「…嘘、じゃないわ…」
「私には住み込みの仕事だと言った」
「そ、れはそうだけど…」
「あの騒がしい街中で、あの怪我を見たら誰だって私が今回の騒動の首謀者だと分かる。それなのに私を助けたのは何故だ」
「それは見捨てることなんてできなかったから…」

夕鈴は返答の言葉を言いあぐねていた

見捨てることができなかったからこそこの窮地に陥ってるわけで
なんとも皮肉なことだ

「さぞかし滑稽だっただろう?掌の上で踊らされている私を見て」
「違うわ!そんなこと考えてもいない!」
「違わない。今ここに夕鈴が居るのが何よりの証拠だ」

否定しながらも夕鈴ははたと気が付いた
怕の目からすうと感情が抜けていくことに
これが怕の暗殺者としての顔、暗殺者としての瞳

「やっぱり他人なんて信じるんじゃなかった」
「怕…」
「信じた自分が馬鹿を見るんだ」

顰められた顔が泣きそうに歪んだ刹那、白刃が舞った

気が付けば夕鈴の目の前
黎翔が怕を切りつけようと剣を振りおろしていた

「…っ!!」
「避けたか、なんとも逃げ足の速いことだ」
「陛下!」

黎翔の手元からかちゃりと剣を握り直す音がする
それは今から怕と切り結ぶという明確な意思表示で夕鈴の肝が冷える

瞬間ガキンと剣と剣がぶつかる音がする
怕が切りつけてきたのだ
ちっという舌打ちをしながら距離を開けた怕が再び構えをとる

夕鈴は黎翔の背に庇われながら
怕の顔色が酷く青褪めている事に気が付いた

それもそうだあんな大怪我をしていたのだ
それであんな動きをして傷口に影響が出ないわけがない
だけれどあの人は敵。黎翔に徒なす敵なのだ

今まで幾度となく刺客に襲われてきた。その度に黎翔達に助けられてきた
だから黎翔が怕を攻撃するのも仕方ないのだと思う反面
どうにかして怕を助けたいと思う自分がいる
それは怕を傷つけたゆえの罪滅ぼしか、それとも自己満足か
そう後ろ向きな考えに陥りまたしても自己嫌悪に陥る

そんな思考の網にはまっている瞬間に
再び黎翔が怕に剣を切りつける音がして慌ててそちらへと意識を戻した

怕が再びその剣先をかわすがそれをかわした瞬間に黎翔が怕の脇腹を蹴りつけた

「ぐうっ!」

怕のくぐもった声が聞こえた

どうやら負った傷口に黎翔が再び攻撃をしたようだ

「その傷でこれだけ動けるとは大したものだ」

その場で蹲っている怕を黎翔が剣で狙いを定めた
黎翔は怕を殺す気なのだと発せられる殺気で感知した

思わず夕鈴は怕と黎翔の間に身体を滑り込ませる

それは何の思惑もない無意識下での行動だった



徒桜11へ続く


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