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2013_05
27
(Mon)00:00

徒桜 18

はじめましての方はまず先に

徒桜1徒桜17をお読みください







そうしてそのまま踵を返す黎翔の背を半ば茫然としたまま見送ったあと
我に返った夕鈴は怕の元へとおずおずと近寄った

項垂れ力なく座り込んでいる怕の隣に腰掛けた
怕は腰かけた夕鈴の姿を一瞥する事もなく
自身の立てた片膝の上に額を置いて項垂れるままにしている
ちらりと怕の様子を探りながらも夕鈴は顔を前に向けたままそのまま話しかけた

「弟さん、だったのね」

ぴくり、と怕の肩が揺れる
しばらくの沈黙が続いた後で怕が身動ぎする
横目で様子を伺えばいつものように胸元に手を置きそこを握り締めていた
そうしてぽつりぽつり、と怕が語りだす

「…母が、組織の者だったんだ」

胸元を握り締めたまま思い出すように怕が語る

「私と楊達は父親が違う。私のこの色は父親譲りだそうだ」
「そう…」

当時まだ小さかった怕と産まれたばかりの弟を連れて組織から逃げ出した母親
そうして落ち着いた先が先程話しに出た村だった

「母から色々な事を教わったよ。身を守る方法とか生きて行く術だとか」

そうしてある日母親は急に帰ってこなくなった
狩りに出ると言い残してある日突然姿を消した

「今思えば消されたんだろうな。奴らに」

そうして帰らなくなった母を心配しながらも日々は無情にも過ぎて行く

孤児となった怕とその弟に村人たちは更に冷遇するようになった
元々は怕の見た目を嫌っていたのだから尚更だ
母はそれを少しでも払拭するために狩ってきた獲物を村人たちに対価として渡していたのだ

生活の基盤が無くなったなか、今度は怕が狩りに出るようになった
元々は母親に教え込まれた術があったため獲物を狩り
生計を立てて行くことにそれほどの時間はかからなかった

髪の色と目の色とで村人たちに忌避されながらも
母と同じように狩ってきた獲物を村人にいくらか卸し
狩りでは得られないものと交換してもらう
そうして慎ましいながらも生活を成り立てて行く
共に身を寄せ合いながら弟と過ごしていた時に怕たちを訪ねてきた人物が居た

当時子どもだけでも生きていけたのはひとえに怕の狩りの腕前と身体能力のおかげだ
母親から教え込まれた術で狩りを行い食いぶちを稼ぐ
そんな怕の能力を見込んで雇い入れたいという申し出だった

こんな子供をと怪訝に思うも
やはり狩りだけでは生計は苦しく必要な物を満足にはそろえられない
怕の見た目だけで恐れる村人たちを頼る事も出来ない

そんな中で身体が弱くまだ小さい弟のためにもなると言われたら迷いは無かった
ただ連れてはいけないと言う事が心残りだったが
定期的に手紙と仕送りを届けさせると言う事で納得した
弟だけならば他の村人たちは邪険には扱わないだろうと淡い期待も込めて
実際に怕が居ない時はその対応があからさまだったからだ

後ろ髪を引かれながらも村を後にした
待ちうける先が暗殺者集団の組織だなんて知らないままに

連れていかれた先でようやくおかしいと気が付いた
だけれども時は既に遅く逃れる術を断たれていた
何度も泣いて縋った
それでも逃してはくれなかった
ただ力を付けて技を更に磨き組織の役に立てばいずれ望みは叶えてやるとのその言葉を信じて
日々精進と鍛錬を重ねて行った

「私のこの姿は目立つ。だからこその使いようがあると思ったんだろう」

金の髪の色に蒼い瞳の美しい若者
その稀有な容姿は男にも女にも気にいられたと言う

「そうやって内部に入り込んで油断を誘うんだ」

それはどういった事を示すのか鈍い夕鈴にでもわかる

言葉を無くした夕鈴に怕は自嘲気にほほ笑んだ

「…汚いだろう?そんな仕事にほとほと嫌気がさして来た時に指示が来たんだ」
「それが私の暗殺だったっていうことなのね」
「そう。そしてそれを成功させれば弟を迎えにいっていいと組織を抜けてもいいと言われていたんだ」
「……」
「馬鹿だよな。今考えればそんなことあるわけないのに」

組織から逃げ出した自分の母親が殺されたと言うのに
弟への思慕を餌に釣られた

「私には弟の話をされれば断る術は無かった。まるで、道化だ」
「そんなこと無い」
「そんなことあるよ」
「だって、私だって怕の立場ならそうする自信があるもの」

顔を俯かせていた怕が夕鈴の方を見る
そんな怕に夕鈴は眉を下げながらも笑みかけた

「覚えていない?私にもね弟が居て、最初にあなたを見つけたのは弟なの」
「…何となく覚えている。年のころなら楊達と同じぐらいの子が居たと」
「…そう」
「てっきり夢だと思っていた」
「夢?」
「そうだ。楊達に会いたくて見せた幻なのかと」

そんな怕の言葉に夕鈴は苦く思いながらも言葉を放った

「…きっと弟さんが知らせてくれたのよ」
「…そう、かな」
「そうよ」

そう言い怕は胸元を握り締めていた手にさらに力を込めた
以前御守りだと言っていた飾り玉がある部分だろう

それを見つめている夕鈴に気が付き怕は懐から飾り玉を取り出した

「夕鈴には以前話したよな…。これは里を出る時に楊達が渡してくれたんだ。私の目の色と一緒だと言ってくれた」

愛おしげにそれを眺めた後
怕は両手でその飾り玉を握り締めてその手をそのまま額に当てる
堪えきれなかった怕の感情が発露する

「待っているからって、だから必ず迎えに行くと約束したのに…」

まるで贖罪するかのようなその姿に夕鈴はかける言葉を見つけられない

そうしてしばらくして身体を抱えるように縮こまっていた怕の身体からふと力が抜ける
ゆっくりと顔を起こした怕はそのまま夕鈴へと顔を向けた

「…戻ろう。このままここにいては身体も冷えるし危険だ」

その姿に夕鈴は一瞬戸惑う
先程まで悲壮な顔をしていた怕は冷静さを取り戻したかのようだった

「え…でも」
「…護るよ。それが最後の仕事と言うのなら」

そういって怕から差し出された手をとって夕鈴は立ちあがった

顔を上げれば目の前に飛び込んでくる桜の木々
出会ったころには固いつぼみのままだった花は綻んで
少しずつ木々を彩り始めていた





徒桜19へつづく


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