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2013_06
03
(Mon)00:00

徒桜 19

はじめましての方はまず先に

徒桜1徒桜18をお読みください




「よろしかったのですか?」

政務室へと戻る傍らで李順が問いかけてくる
先程の件は近くでは居なかったが処置をどうするかは既に話し合っている
そのことについてまだ言いたいことが残っているようだ

「何がだ」
「あの怕とか言う暗殺者の事ですよ」
「…奴は夕鈴を害することはできんだろうからな」
「ですが…」

その李順の躊躇いの言葉に黎翔は苦笑する
囮だなんだと夕鈴を危険にさらしてはいるが
雇い主として安全は確保するべきだとは思っているのだろう

「大丈夫だ。他にも護衛はつける」

そう言った黎翔の言葉に渋々ながらも李順は頷いた
だが黎翔にとってはそれすら必要でないと思っている
怕の腕は相当にたつ。今は黎翔が負わせた太刀傷で負傷してはいるが
もしも手負いでなければ更にだろう
だが今はまだ負わせた傷が癒えてはいないはずだ
それゆえの措置となる

黎翔は怕の様相を思い浮かべる
あの容姿はとある嗜好の好事家にとっては堪らない者だろう
ああいった人形のような姿形をした者を好む人間は多くいる
なんとも胸糞の悪い話だと思うが
だからこそ組織は殺さず手放さなかったのだろう

だが枷によって縛り付けているそれがなくなれば
本人にとってはもう命令に従う必要もない
それを危惧して、だからこその故郷の殲滅…とも言えるが
怕はもう組織には戻らない。それは確実に言える

家族を殺され隠匿されていた恨みはきっと尽きないだろう
そんな人間が護衛として付くのだからそれ以上の物はない
おかげで此方が動かせる手駒が増えるのだから

夕鈴の傍にいることには不満を覚えるが
少なからず夕鈴に恩義を感じているようだから
これ以上の適任はいないだろう

未だ何か問いたげな李順を目の端に移しながらも
この話はもう終わりだと言うように口を閉ざしたまま
黎翔は政務室へと歩を進めた

 * * * * *

夕鈴は自室の外にある樹を眺めていた
あれから1週間ほどが経っている

怕の身体の傷は徐々に癒えている
けれど以前とは決定的な違う何かが
時折何かを思い出すように胸元を握り締めたまま力なく桜の樹を見つめるその姿が
夕鈴の心を酷く落ち着かなくさせていた

会話もする。それによって時折うっすらとだが笑みも見せてくれる
だが其れがすべて希薄な物に感じて夕鈴は成す術を見つけられずにいた
じわりじわりと感じる底知れぬ不安が何なのか確定できないまま時は過ぎる

綻んでいた花は瞬く間に木木を彩る満開となり今ではもう散り始めの花びらが舞う
いまここで大雨でも降ればあっという間に散ってしまうだろう
その儚さと潔さを思い目を細めて樹を見つめた

そうしてそんな日々の中それは訪れた

あれからも黎翔の政務室に侍る日々はない
それは暗殺者対策と言ったもので残党が残る今はまだ安全が確保できないためと説明されていた
黎翔の傍にいれば安全だというのは以前の弁だが
執務が重なりなかなか夕鈴の傍にいることもできないため
安心して呼ぶこともできないというもので
それでも仕事の合間を縫って顔を見せてくれるようにはなっていた

散りゆく花を見つめ何とはなしにぼんやりとお茶を飲んでいた
ひらり、と花びらが一枚、茶碗の中に舞い落ちた

「…夕鈴」

背後で護衛として立っていた怕がこっそりと夕鈴に耳打ちする
奴らがきた、と夕鈴の手をとりそこから立ち上がらせた

慌てずにゆったりとした所作で怕は夕鈴を背に庇うようにして立つ

そこに音もなく表れたのは以前怕が纏っていたのと同じような恰好をした
黒づくめで覆面をした数名の刺客たちだった

「やはり気付いていたか」

話しかけて来たのは刺客の中でも一番体格のいい人物だった
それに対して怕は夕鈴を背に庇ったまま無言で立つ

「…久しぶりだな」
「……」

話していた男のひとりの目線が夕鈴を視界にとらえる
話してくる口元であざけるような声音で言葉が発せられる

「流石というかなんというか警戒心の強い狼の懐によくぞ潜り込めたものだ」

どうやら夕鈴たちは怕の見た目を気にいり
そのまま護衛として雇ったと勘違いしているようだ
その蔑むような声音が今まで怕が請け負ってきた仕事の内容を彷彿とさせ
あからさまに怕本人を侮辱しているようで胸の奥でぐつりと何かが渦巻いた

「丁度いい。そのまま妃を亡き者にしろ」

その言葉にも怕は無言で返す
どうやらその態度に焦れた目の前の刺客が少しいらだった声で促してくる

「どうした?」

そしてややあって怕はようやく言葉を発した

「…嫌だ、と言ったら?」
「なんだと?」

ずっと無言だった怕の放った言葉に
ざわり、と他の刺客たちに動揺が広がる

「寝返ったのか?」

その言葉にふっと鼻で笑い冷淡な声音で怕は応えた

「…最初に騙していたのはそちらだろう?」

一瞬の沈黙の後、嘲るような笑い声が響いた

「…はっ!はは。そうか、なんだ今頃知ったのか。騙される方が悪いのさ。そんなこと常識だろう?」

平然と言ってのける刺客たちに夕鈴の胸が詰まる
造反の理由が知られ周りの意識が緩んでいく
それはまるで何も知らなかった怕を蝕むように響いていく

怕がどんな思いでどんな気持ちで組織にいたのか
それが分かった今となってはただただ歯がゆかった
夕鈴は怕の背後で唇を噛みしめた
気が付けば怕も手を握りしめていた

「知って、いたんだな?」
「あたりまえだろう?弟を餌にされれば従順になるお前を見るのは滑稽だったな」

握り込んでいた怕の手にさらに力が籠る

「…そうか。なら遠慮はいらないな」

すらり、と怕の腰に佩いていた剣が抜き去られる
鞘から抜き去られたそれは2本あり
怕が双刀使いだと言う事を知らしめていた

表情を消し両手に刃を持った怕のその姿に
俄かに殺気立つ周囲に夕鈴は息を飲んだ

「…夕鈴は少し離れてて」

そう夕鈴に告げた怕が駆けだした





徒桜20につづく



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