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2013_06
10
(Mon)00:00

徒桜 20

始めましての方はまず先に

徒桜1徒桜19をお読みください









「くそっ!そいつはまともに相手をするな!妃だ!妃を早く狙え!」

怒号が飛び交う

殺気だった刺客たちが夕鈴の方へ向かおうとする
その声が飛び交う先から刺客たちが地に伏していく

あまりにも鮮やかに倒していくその姿に
黎翔が夕鈴を怕に託した理由が垣間見えた

――強い

呆気にとられる夕鈴の目の端からまたもう一人倒れ伏した
その目まぐるしくも圧倒的な戦いに気をとられ
背後から迫ってきていた刺客に気が付かなかった

「っつ!」

手首を掴まれ視点が急に切り替わる
その勢いのままぐるりと身体が引き込まれた

一瞬、刺客に捕えられてしまったのかもしれないと判断し
恐怖と焦りに身体が強張った夕鈴の目の前で
どう、と黒づくめの人物が倒れて行った

その一瞬の出来事に呆けたまま逞しい胸に抱きとめられる
手首を掴まれたままその引き込まれた先に待っていたのは
温かなぬくもりとふわりと香るかぎなれた香の匂い
そして夕鈴の頭上で声が発せられれば
そのよく聞き知った声音に強張っていた体の緊張を緩めた

「賊が。汚い手で妃に触るな」
「…陛下」

肩に手を添えられて黎翔の方へ抱き込まれる
戸惑いながら見上げた夕鈴に黎翔は安心させるように笑んだ

「怪我はない?」
「は、はい」
「そう、ならよかった」

そんな夕鈴と黎翔の様子ををちらりと見た怕は
夕鈴を庇いながら戦う必要がもう無いと理解したのか更に速度を速めた

その姿をみてぽつりと黎翔が零す

「――強いな」
「は、い」

夕鈴は唖然としながらもその姿を目で追う

怕が舞う
美しい金色の髪が揺れる

それは花散る中に繰り広げられる演舞のようで
夕鈴はその姿にただただ魅入った

美しくも悲しい演舞だ
孤独な美しき孤高の獣
圧倒的なその姿の中に悲しみを見た

そうして夕鈴は急激に理解した
どうして怕から目が離せなかったのか
どうしてこんなにも気になるのか

独りで立つその姿は誰かを彷彿とさせる

あの時初めて会った手負いの姿
何があっても生き抜くのだと
その眼のなかにその姿を垣間見た

それは表情に出さないだけで
悲痛な覚悟がある事を知っている

その身にかかる重責が、何かを守ろうとするその姿が重なって見えたのだ

夕鈴が茫然と黎翔の腕の中でそれを見守る中

その舞いも終わりを迎える
がらんと刃が落とされる鈍い音を聞いて夕鈴ははっと意識を切り替えた

怕の足元には倒れ呻く刺客たち
両手に持っていた剣は片方だけを下に落とし
ただそこに怕だけがぽつんと立ちすくみ全てが終わったのだと物語っていた

呆気なくも終わったその戦いに
夕鈴はつめていた息を吐きだした

怕、そう夕鈴が声をかけようとして目を見開く
もう片方に残された剣を怕が自身に向けようとしている姿が目に入ったのだ

「駄目!やめて!」

声を出すと同時に夕鈴の体が動いていた

「怕!」

駆けだした夕鈴が怕の腕にしがみつく
がらんともう一度音を立て怕の手から残されていた剣が滑り落ちた
そうして虚ろな目をした怕が夕鈴の方へと向いた

「…何故?」

生気のない目はもはや生きる気力を無くしたと物語っていて夕鈴の背筋を冷えさせた

「何故、って此方が聞きたいわ!どうして自分に刃を向けたりするの!」

怕はその言葉に首を傾げ自嘲気味に笑い両手を見た
その両手は返り血で濡れている

「やりたかったことは終えた。…それに私にはもう生きる望みが無い。こんなに血に濡れて、護りたい者もなくどうやって生きて行けと言うんだ」
「――だからって」
「それに私が居なくなったとて困る人間なんていない」

開いた両手を見つめながら抑揚なく話す怕は
一切の感情を抜き去ったようで夕鈴の息を飲まさせる
きっと怕はあの時、真実を知った時から既にこうしようと決めていたに違いない
その悲壮な姿にぐっと詰まった喉から何とか吐き出すように夕鈴は言葉を紡ぐ

「私は…私は、悲しいわ。怕が居なくなったら」
「夕鈴…」

困惑するように見つめてくる怕に更に言葉を向ける

「確かに人を殺めるのはよくないわ。…だけど弟さんのためだったんでしょう?」
「それでも人殺しには違いない」
「なら、ちゃんと生きて。…生きて罪を償わなければ」
「償う?」
「そう。奪った命の分だけその人の生きる道があったでしょう?」

その人たちの生きる道を断絶したのは怕だ
その中には悪人だっていただろうし罪のない者だっていたのだろう
依頼されればそれがどんな人物であれ殺さなくては成らない
それが怕が歩いて来た暗殺者と言う道だ
例えその道が自分の意に沿わなかったとしても

「私は怕に生きててほしい。だから怕が死んでしまうととても悲しいわ」
「夕鈴…」

夕鈴は怕の手に触れようとしたが
汚れた手に触れさせたくないとすいと避けられる
それに構わず更に手を伸ばし怕の両手を夕鈴の両手で包んだ
そうして困惑した怕に然りと目線を合わせる

「誰だって間違う事はあるわ。だけれど死んでしまったらそれすらも正すことはできなくなるでしょう?」

困惑した怕の目が揺れる

「ね?それにここに怕が居なくなったら哀しむ人間が居るって覚えてて」

独りではないとそう思いを伝えたくて笑みを向けた

その言葉に茫然とした面持ちで怕が応える

「…生きて、いいのかな」
「当り前よ」
「だって、もうあの子はいない」
「ならちゃんと生きて弔わないと」
「弔う?」
「ええ。だってちゃんと弔ってあげてないでしょう?」
「…だろうな」
「ならちゃんと挨拶して、弟さんの分まで生きて見せるからって報告しないと」
「恨んでないかな」
「…それは本人だから分からないわ。でも」
「でも?」
「本人は望んでも生きられなかったのに、何故自ら命を絶つんだってそっちの方が恨まれそう」

その夕鈴の言葉に伏せた怕の目からぽろりと涙がこぼれ落ちた

「…そうか、そうだな」

はらはらとこぼれ落ちる怕の涙とともに
ひらひらと花びらが舞う

まるで怕のために木々が涙を流している様だ
夕鈴は後ろに立ち並ぶ木々をふと視界に入れ、そう思った




徒桜21につづく



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