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2013_06
17
(Mon)00:00

徒桜 21

はじめましての方はまず先に

徒桜1徒桜20をお読みください




「夕鈴、最後に抱き締めさせて?」

震える手で引き寄せられた
夕鈴はされるがまま怕に抱き締められるままにしていた

「人のぬくもりなんてずっと忘れてた。こんなにも温かいものだったんだな」
「ふふ、そうよ。死んでしまったらそれすら感じることはできなくなるわよ?」
「ああ、そうか…そうだな」

怕が埋めている夕鈴の肩が濡れる感触
泣きながら生きてもいいのかと確かめるようにきつく抱きしめられた

ようやく落ち着いた怕が夕鈴の身体を離す

「ごめん、汚れた」
「いいの、気にしないで」

泣いたことが照れ臭いのか少し顔を反らして怕が謝罪する
その怕に向けて夕鈴はずっと訊ねたかった事を聞いてみた

「ねえ、名前を教えて?」
「名前?」
「そう、本当の名前」
「…どう、して」

どうしてその事を知っているのだとその表情が物語っている
そんな怕の表情をみつめにこりとほほ笑んだ

「だって怕は怖いとか恐ろしいとかと言う意味につながるでしょう?そんな名前をつける親なんていないわ」
「……」
「ずっと気にはなっていたの。弟さんとは名前が違ってたし、だから怕にも本当の名前があるんじゃないのかなって」

怕は少しためらったあとでぼそりと夕鈴の耳元で名前が呟いた
それに再びにこりと笑って夕鈴は怕の本当の名前を呼んだ

「―――」

怕の目が見開いた後強く閉じられる
再び強く強く抱きしめられた

掠れる声でありがとうと放たれた声に夕鈴は笑みを零した

そうして再びひとしきり泣いて落ち着いたのか
身体を離した怕の顔を見て夕鈴は笑みながら目元をぬぐってやる

「綺麗な顔が台無しよ?」
「構わない」
「そう?もったいない」

お互いくすりと笑い合った

そうして怕は黎翔の方に目線を向けた

「迷惑をかけた。この恩は忘れない。何かあれば力になる」

黎翔はその怕の言葉に返事をしない
怕の方もそれは心得ているようで夕鈴の方へと向き直った

「夕鈴、…ありがとう」
「…もう行くの?」
「ああ。ここにいると離れがたくなるから」
「でも、旅の準備とか…」

そう言う夕鈴に怕は笑みを零す

「もともと荷物なんてなかったんだ。身一つで行くよ」
「…そう。…気をつけてね」
「ああ。夕鈴に与えられた命は大事にする」
「おおげさね。…ちゃんとこれから頑張ってね」
「ああ」

こつんと額と額が合わされる

「ありがとう。一生忘れない」
「…うん。私も」

そうしてゆっくりと身体を離す

「じゃあ、これで」

最後に夕鈴にへと向けた笑みは今までで一番綺麗なものだった

その瞬間ざあっと強風が吹き薄桃色の花弁が散り、舞いあがる
その風の強さに夕鈴は一瞬目を閉じた

おさまった風のあと目を開けるとそこには怕の姿はもうなかった

「……」

近くで見守っていた黎翔が夕鈴の側へと近寄る
夕鈴は傍らに立つ背の高いその人を見上げた

黎翔はそんな夕鈴を複雑な思いで見つめる
そうして少しためらったあとぽつり、と夕鈴へ問いかけた

「…夕鈴は彼と一緒に行きたかった?」
「…彼?」
「そう、暗殺者の彼。彼の事を随分と気に入っていたようだったから」

そんな黎翔の言葉に夕鈴は少しばかり首を傾げる

「…似てたんです」
「似てた?」

たった独りでそこに立つ様は誰かを彷彿とさせた
だから、余計に目が離せなかった

孤独に耐え忍んで
敵ばかりの中で強かに生きゆく様は
その姿は誰かを思い起こさせた

「はい」
「…そう」

だがそんなこと黎翔に言うわけにはいかないと曖昧に笑みを返したのだが
随分と沈んだ雰囲気の黎翔に何と言って声をかければいいか夕鈴は言葉に詰まる
そんな夕鈴が戸惑うなかで窺うように黎翔は尋ねて来た

「でも好きなんでしょ?彼の事」
「へ?え、ええまあ好きか嫌いかと言われたら好き、ですけど…」
「…そう…」

その言葉に更に落ち込んだ様子になった黎翔に
夕鈴は疑問に思っていた事を口にした

「あのっ!さっきの流れからどうして私が付いていくいかないの話になるんですか?」
「え?だって…?」
「確かに私、怕の事嫌いじゃないですけどついていきたいとかとかないですから!」
「え?でも…」
「そもそもそんなことしたって怕、いいえ楊華の迷惑にしかならないじゃないですか」
「楊華?」
「はい、怕の本名だそうです」
「え?それじゃ…あれ?彼、ではなくてもしかして…?」
「あれ?気がつかれてなかったんですか?楊華は女性ですよ?」

その夕鈴からの言葉に虚をつかれた黎翔は一瞬言葉に詰まり
ようやく夕鈴の発言を認識した

「え、ええええ?」
「本当に気が付かれてなかったんですか?」
「いや、まあ確かに線は細いとは思ってはいたけれど…」
「本当に気がつかれてなかったんですね…。それに私はお妃バイトって仕事があるんですから仕事はちゃんと全うします!」

どうやら黎翔の気落ちは
夕鈴が仕事を放り出すことへの不安と捉えられたようだ

それに何よりも夕鈴が心を砕いているという時点で
黎翔は思い違いをしていたのだ

黎翔ははあと溜息をつく

「僕もまだまだってことかな」

まさか男女の違いにも見抜けないとはなとひとりごちた
その黎翔の言葉に夕鈴は不思議そうに首を傾げ
問いかけようとした先でまたしても風が強く吹いた

「どうかしたんですか?わっ」

強く吹き乱れるそれは散りかけの桜の花びらを全て奪い去ってしまうようなもので
夕鈴は乱れる髪を抑えながらただただその散りゆく様を見つめた

黎翔は夕鈴の肩にそっと手を添えて後宮へと促す

「戻ろうか」
「…はい」

乱れた髪を手櫛で整えながら
散りゆく桜吹雪の中夕鈴は後ろを振り返った

儚い桜は舞い落ちて
次いで青々とした若葉が茂りだす
それはまるで彼女の門出を祝うよう

どうか幸せに
いつか心から笑える日々を願って木々を見上げた後
その少し先で待っていた黎翔の後を追った





徒桜22・エピローグにつづく


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Re: はじめ


こはく様

いつもありがとうございます
皆さん女性とは気づかれていなかったようで
しめしめとほくそ笑んでます(笑)
過去のお話にも目を通していただいてありがとうございます
目次ですね目次…なるほど!よし作っ…
いったい何話あるんだ…((((°Д°;))))

き、気長にお待ちいただいてもいいですか…(汗)



2013/06/20 (Thu) 02:23 | ももひろち #- | URL | 編集 | 返信

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