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2013_07
08
(Mon)00:00

夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは【徒桜番外編】

こちらは徒桜(本編全22話)の番外編です

はじめましての方はまず先に
徒桜1~徒桜22をお読みください


少々長めになってます
お暇な時にでもお読みください

中に残酷表現があります
そういったのがお嫌いな方はお読みにならないでください



どさりと目の前に荷物が置かれる
店頭にて品物の整理をしていた
老年の男性であるこの店の店主が顔を上げた
そうして荷物を置いた主を認めてその顔に笑みの皺を刻んだ

「やあ楊華さんいらっしゃい」

「査定してもらえるか」

そっけなくも簡潔にそう言った目の前の人物に
店主は再びにっこりと笑いかけると
そろばんを持ち出して目の前に置かれた荷物を検品していく
切り分けられ保存用に処理された獣の肉にそれの皮
春の気配がひしひしと感じられる季節になったとはいえ
冬の寒さの厳しいこの地ではいつだって獣の毛皮類は重宝する

「おや今回は角もあるね。うん。随分と立派なもんだ」

ぱちぱちとそろばんをはじく音がする
それを横目にしながら楊華は生活に必要な物を店内からいくらか見繕っていく

「相変わらず見事な腕前だね。毛皮にもほとんど傷が付いていないじゃないかい」
「…冬籠りが終わった後だからな。質はあまり良くないが」
「いやいや。この時期にこんな大物を持って来てもらえるなら大助かりだよ」
「今回はたまたまだよ」

必要な物を手に取り見比べながら
店主とたわいない会話を交わしていく

「はい査定終わったよ。いつもありがとうね今回はちょっと色を付けてこのぐらいでどうかな?」

そういってはじいた後のそろばんを楊華に見せて確認をとる
その金額に納得したのか一つうなづいて
これまたいつものごとく同じ言葉を楊華は放った

「ならこれとこれとこれの金額を差し引いてくれ」
「はい。じゃあまいどあり」

そういって楊華が手にした物を差し引いた金額の現金が手渡される
手渡されたそれを懐に忍ばせてある財布代わりの布袋に収めて
楊華はそれを再び懐にしまい込んだ

「じゃあ世話になった」
「おやもう帰るのかい」

そう言い立ち去ろうとする楊華を捕まえて
まだまだ話し足りないと店主は世間話に花を咲かせようとする

色々な品物を取り扱っている店とはいえ
片田舎であるこの村には顔見知りの人物が常連となる
常連とはいえ週一ぐらいでしか顔を見せない楊華は恰好の話し相手になる

それを知っているのか立ち去ろうとした足を少し止めて
楊華は苦笑しながらもその会話を続けた

「楊華さんは今もあの山奥に住んでるのかい?」
「ああ、この容姿はどうしたって目立つからな。あまり人目が無い方がいい」

楊華はそう言って分かるように自身の髪の毛のひと束を持ち上げた

夕鈴たちの元を去る時は
移動時に何か揉め事があっても面倒だと思って染めいていた髪の毛も
今ではもうすっかりと元の色を取り戻している

「だからって若い娘さんがあんな山奥で独りで過ごしているなんて危険だろうに」
「心配はいらない。私の狩りの腕前は知っているだろう?」

そのことは店主も当然分かっているがやはり心配は拭えない
楊華が住んでいるとされる場所は10数年前に盗賊が押し入り
村一つ滅ぼしたと噂されるいわくつきの場所だ
心配げな表情をしている店主に楊華は少しばかり相好を崩した

「…ありがとう。でももう少ししたらしばらくここを離れようと思うんだ」
「ああ、それはいいね。若者はもっと世間を見て回らないとね。ああでもそうなると寂しくなるね」

せっかくの上得意さまなのにねと
商人さながらのいたずらめいた顔をむける店主に楊華は笑みを見せた

田舎から都会へと憧れを抱き都会に行く若者は少なくない
だからこの村にも若者と言える人物は数を数えるしかいない
若者が定着しないとそのことを嘆きながらもそれも仕方がないことと諦めている
このまま田舎で若者が骨を埋めるのにはまだ早いと苦言を零すのだ

「大丈夫。しばらく諸国をめぐったらまたここへ戻ってくるつもりだから」
「そうなのかい?」
「ああ。終の住処はあそこにしたい」
「終の住処って楊華さんはまだまだ若いだろうに」
「…それもそうだな」

店主の言葉に苦笑いしながらも心の中では決心していた
あの村こそがすべての始まりで
そして自分の全てを終わらせる場所なのだと

店主に別れを告げてほかの店でも必要な物を買いそろえ岐路につく
少し前までは雪解けの水が交じりぬかるんでいた山道は
いつの間にか固さをもって足元を滑らせる事もない

そんな楊華の目の前にひらりと桜の花びらが舞い落ちた
立ち止まり仰ぎ見て花びらの落ちてきた元を見つめる
満開に咲く桜の樹が視界に入り楊華は目を細めた

――あの日からもうすでに3回目の桜の季節を迎えた

遠く聞こえてくるとある国の噂は
側室だった一介の下位妃が正妃まで上り詰めたと聞き及んでいる
その噂を耳にするたびにあの二人も相も変わらずなのかと
自然に笑みが浮かんでくる

そう思い出に思考を飛ばし心温かくなりつつも
後悔と懺悔の念は消えることはない

あの後ようやっと辿りついた故郷は見るも無残な状態で楊華は言葉を失った

焼け焦げ朽ち果てた家屋の残骸と思わしき
黒焦げの柱がところどころに立ち並び
そしてその周囲には打ち捨てられた村人たちの遺骸が野ざらしになっている

獣にでも食い荒らされたのか
無残な遺体たちの骨はところどころ部位を失っている
いや残っている方が少ないと言えた

その状態を見て吐かなかったのは
ひとえに自身の経験故なのだろう
こんな所で暗殺者としての経験が役に立つとは、と苦笑しか浮かんでこなかった

このような惨状は暗殺者時代見慣れた風景だったはずだ
それでも零れてくるのは涙と嗚咽で
辛い仕打ちを受け続けたはずなのに
自分がここを離れなければ
彼等は今もここで平穏に生きていたはずなのだと慙愧の念に責め苛まれる

そうして記憶に残る思い出深い昔の住処
こんなにも小さな住まいだったかと記憶との相違に驚きながら
もはや玄関とは言えぬ崩れた枠を潜り抜け
室内だったと思わしき場所に足を踏み入れた

そうして見つけたそこに残された小さな骨にただただ謝りながら号泣した

一昼夜そのまま過ごし泣きすぎてぼんやりした思考のまま
のろのろと腰を上げて起こした行動は穴を掘ることだった

残された村人たち一体一体の墓穴を掘り全てを埋葬させた

人並み以上にあると思っていた体力は
精神的な物も手伝って埋葬後には指一本動かすことも億劫なほどの疲労感に包まれていた

埋葬した場所を一瞥できる大樹に身を寄せて
身体はなげうったままぼんやりとその場所を見る

――もうこのまま朽ち果ててしまってもいいかもしれない

ゆっくりと目を閉じて何もしなければ
いずれ獣に襲われるか餓死するだろう
それでももういいかと四肢から力を抜いた時に
ふと過ったのは最後にした約束と温かなぬくもり

ああ、そうだ約束をしたんだこの罪を背負って生きると

疲労感の残る身体をゆっくりとおこして
次にとった行動は生活の基盤を整えることだった

まるで何かに取りつかれたように身体を動かしていく

家屋を住めるように修理していく
他人の家だった個所から使えそうな資材などを使う事に抵抗感はあるものの
そう言っては居られない状況なのも確かで

それに焼き払われ打ち捨てられた村になど誰も立ち寄ることはない
人に会わないその日々は楊華にとってはまだ救いだった

そうして居を構え死者への弔いを欠かすことなく続け
日々の暮らしも自分の気持ちにも折り合いをようやく付かせることができたのだった

桜の木々の隙間から振り落ちる木漏れ日に目を細め
追憶に耽る

なあ恨んでいるか

ぬけぬけと生き永らえている私を

けれど約束をしたんだ

精一杯生きると

だから恨み事を言うのはもう少し後に待っていてもらえないか

けれどきっと死んだとて自分は涅槃になど行けるわけない事も知っている
堕ちるのは悪鬼蠢く羅刹道だ

それも含めてすべて後から聞くよ

心なんて凍りついていたと思っていた
唯一動かされるとしたら大切な弟のことだけで
それ以外を必要ともしなかったし必要とされたいとも思わなかった
けれどそれを覆したのはとある少女

自分の危険も立場も顧みず
ただただ楊華の無事を願ってくれた
その献身と無謀さに呆れた
けれど下心なく施される好意の心地よさを覚え
その優しさに浸って行った

凍った心に思いを注ぎこんでくれた
だからこそ彼女の想いに報いたい

明日という日は必ず平穏に訪れるものではない
いつ無情に崩れるか分からない

だから、懸命に生きて行く

約束を守れなかったせめてもの罪滅ぼしとして

先ずはふらりと顔を見せるのもいいかもしれない
そろそろ子どもでも産まれているだろうか

――楽しみだ

桜咲く花々の隙間から木漏れ日が降り注ぐ
目を閉じても瞼の外から陽光が照らしているのが分かる

それは生きているという実感
ここに命があると言う真実

桜舞い散る大樹の元で花びらが降りかかるままにした




2話に分けようかと思いましたがそこまでの長さにもならず…

徒桜はこれにて完結となります
長々とお付き合いありがとうございました!

あとがきはまた後日


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