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2014_05
09
(Fri)00:00

悪い夢

狼陛下の花嫁のSS第42段です

今月号を読んでついつい滾って書いてしまいました
短いですがおつきあいをいただける方は
続きを読む、からどうぞ





さらさらと紙の上を筆が走っていく
沈黙が流れるままの自身の執務室で
黎翔は黙々と仕事を進めていた

開いた窓の外からふわりと風が流れて行く
窓から入り込んだ風が黎翔の頬を撫でて行った刹那

――――

黎翔は動かしていたその手をぴたりと止め顔を上げた
風と共に流れて来た花の香りにふ、と意識を向けた

自室の窓から見えるそこには庭園がある
綺麗に彩られ咲き誇る花々が見栄えのよいように植えられている
その花々に黎翔は見覚えがあった

そう言えばあの花は彼女が好きだった
嬉しそうにそれを摘む彼女に
何故、と理由を問いただせば食べられる花なのだと
誇らしげに熱弁していたのを思い出す

ああだからか、と黎翔は先程自身の身に起きた事を思った

既に筆は手から離れ黎翔は身体ごと庭園に向けた
そのままぼんやりと顔を動かさずに眼だけであちこちに視線を向けた

そこかしこに彼女の気配が残っている
耳を澄ませば彼女の声が今にも聞こえてくるようで

――陛下

花を摘むために屈んでいた身体を起こした彼女が
黎翔を認め咲き誇るような笑顔でこちらに笑いかけてくるようで

今でもさもそこに居るような錯覚を起こす

夢を見た

あの安らぎが、穏やかさが永遠であると
この手に有るのだと勘違いしてしまいそうになるほどに
彼女の居た日々はそれだけ充実していて満ち足りていた

そんなことなどあり得ないのに
血に濡れ策略を巡らし政敵を追い詰めほふっていく
穏やかとは全く逆の事をしているのに

手放したのは自らで

なのに消えない

あの温かな記憶が
確かなぬくもりが
あの日までは確かにこの手にあったのに

悪い夢だと彼女にそう言ったのは自分
 
こんな非道い人間など
早く忘れてしまえ

そう、願うのに

忘れてほしくない

そう願う自分が居る

温かな湯の中にたゆたうように
心地よい関係を断ち切ったのは自らで
彼女に危害が及ばないように
そう非情になったはずなのに

あの優しい思い出が心に影を落とす

だからと最後に真実を教えた

穏やかな自分は偽っていたのだと
狼陛下こそが真実の自分だと

彼女を騙していたのだとそう告げた

あれだけ嫌われたくないと本性を隠していたと言うのに

もう嫌われただろう
むしろ嫌っていて欲しいとさえ思う
その感情が嫌悪であれ自身を思っていてほしいと
自分勝手に願ってしまう

そんな身勝手さに自嘲が湧く

もう、手に入れることはかなわない
あの温かな記憶

ああ、全く悪い夢だ

何て優しくて温かな悪い夢――






お付き合いありがとうございました

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